【2025年3月3日】岐阜県関市の山下市長は、長良川鉄道のあり方について「今すぐ廃線という状況にはない」と前置きをしたうえで、「今のままでは存続が危うい」という見解を示しました。これは、市議会の一般質問で答えたものです。
山下市長は、他の沿線自治体と同意したわけではないと断ったうえで、「通学の生徒たちが困らないよう必要な部分を残すために、一部線区の廃止も視野に入れながら構築していくのが、必要な手法ではないか」という考えも明らかにしました。
また、岐阜新聞(2025年3月5日)によると、山下市長は答弁の翌日におこなわれた地元メディアの取材に対して「郡上市のなかで整理するのが現実的。郡上市で議論してほしい」と話しています。
【解説】廃止検討はミスリード?郡上市長の「施政方針」が意味するもの
長良川鉄道のあり方について、関市の山下市長が言及した市議会の一般質問は、YouTubeでも公開されています。
■令和7年3月3日一般質問(関市)
山下市長は、なぜ私見を交えた見解を述べたのでしょうか。ここで、市議会の流れを追っていきます。
この日の一般質問では関市の市議会議員が、郡上市の山川市長の施政方針にあった「公共交通対策」について取り上げます(山川市長の施政方針は、郡上市のウェブサイトで閲覧できます)。
その内容は、路線バスなどの維持に年間2億5,000万円を支援しているものの、利用者は減り続けており「公共交通のあり方について、抜本的な見直しに着手したい」というものでした。また長良川鉄道については、「皆様の意見を伺いながら、郡上市として具体的な方針を(山川市長の)任期中に示したい」と伝えています。
これを受けて、関市の市議会議員は「沿線市町は長良川鉄道の『存続』で一致しているのか?」と、山下市長に質問します。長良川鉄道は、5つの沿線市町などから年間5億円前後の財政支援(補助金)を受けて運行しており、このうち約1億円は関市が負担しています。
山下市長は、「全線開通から90年が経過して老朽化が進んでいる。今後の維持費を考えると、補助金は減っていく状況にはない」と、支援額の増加を懸念。ただ、今後のあり方については「沿線5市町の担当者や首長も含めて検討しているが、今すぐ廃止にはならないと認識している」と伝えています。
続けて山下市長は「いずれにしても、今のままでは存続が危ういので、私としては通学の生徒たちが困らないよう必要な部分を残すために、一部廃線も視野に入れながら構築をしていくことが、必要な手法ではないかと考えている」と私見を述べたのです。
あくまでも山下市長の考えであり、「5市町の首長が同意したわけではなく、当面は存続ということに変わりはない」と、沿線自治体が近々廃止を検討している点については否定しています。
関市としては、しばらくは「存続する」方針のようです。問題は、郡上市の考えです。長良川鉄道は、全線72.1kmのうち46.1km、全38駅のうち23駅が郡上市にあります。この23駅の利用者数をみてみましょう。
■長良川鉄道の乗降客数(2022年度)

郡上市には、乗降客数10人未満の駅が10駅もあります。とくに郡上八幡~北濃の線区で多く、郡上市の関係者の話として「郡上八幡以北の廃止を検討している」と、岐阜新聞(2025年3月5日)が伝えています。
郡上八幡以北の線区は、すべて郡上市内にあるため、関市の山下市長が「郡上市で議論してほしい」と発言したことも理解できるでしょう。郡上市の山川市長は、自身の任期中に長良川鉄道の将来について方針を示すとしています。今後、クロスセクター効果や住民アンケートなど、対象線区の沿線地域ではさまざまな調査が実施されると予想され、長良川鉄道のあり方が検討されそうです。
※長良川鉄道に対する沿線自治体の支援内容や、利用促進の取り組みなどは、以下の記事で詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
えちぜん鉄道の列車が落石に衝突 – 一部区間で運休
【2025年3月2日】えちぜん鉄道の勝山永平寺線で、比島~発坂を走行中の上り始発列車が落石に衝突し、脱線しました。この事故で運転士が軽傷を負いましたが、乗客2人にけがはありませんでした。
落石の大きさは高さが170cm、幅が270cmほど。運転士の話によると「カーブで見通しが悪く、落石に気付かなかった」そうです。また、現場に派遣された運輸安全委員会の鉄道事故調査官によると、落石は線路脇の斜面から崩れ落ちたとみられます。
この事故を受け、勝山永平寺線は山王~勝山が運転見合わせに。三国芦原線でも、車両運用の関係で一部列車に変更が出るなどの影響が出ています。
鉄道の運転士不足が深刻化 – 地方鉄道の半数が「不足している」と回答
【2025年3月3日】国土交通省は、全国172社の鉄道事業者を対象におこなったアンケート調査の結果を公表しました。このなかで、「現在の運行ダイヤに対して運転士が足りているか?」という質問に対して、地方鉄道の140社中68社が「不足している」と回答。JRや大手私鉄(32社)でも、11社が不足していると回答したそうです。また運転士不足が原因で、直近1年に減便などのダイヤ改正をおこなった事業者は、8社あったことも伝えています。
国土交通省では、鉄道運転士の免許取得年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げたほか、外国人や退職自衛官の登用など関係省庁などとの調整も進めており、人口減少時代における鉄道の安定運行をめざすとしています。